米価高騰の裏に静かな戦争──JAとアメリカの攻防
コメの価格高騰は消費者にとって大きな問題だ。前回の記事では、「流通の目詰まり」について農水省とJAの関係という視点から問題を追ってみた。
しかしこの「流通の目詰まり」とは、そもそも穏当な官僚用語ではないのだろうか。この言葉には、「名指しにはできないけれど、コメを大量に買い占めている転売ヤーが存在している」ことを婉曲に示唆している可能性はないか。
仮にそうだとすれば、さらに次の問いが浮かぶ。その転売ヤーの裏には、何らかの勢力がついており、それはコメの価格高騰の問題にとどまらない、政治的な力学が隠れているのではないか。
日本の農業団体、とりわけJA全農は、戦後一貫して強大な政治的影響力を持ってきた。だが近年、財務省・経産省・外務省、そして一部の自民党改革派議員らによって、JA全農の解体や影響力縮小を狙う動きが強まっている。背景にはアメリカの意向が見え隠れする。
アメリカ政府はJAの金融部門を非関税障壁とみなし、以前からその改革を強く求めてきた。アメリカは、JAが抱え込む、日本の農業市場全体、金融・農産物・肥料・農業資材により深く食い込みたいと考えている。
農産物の市場開放を求める声と、ミニマムアクセス米(MA米)の輸入義務をめぐる圧力は、日米間の緊張を象徴してきた。
このJAに対する圧力は、かつての郵政民営化とよく似ている。日本国内の既得権益を「改革」という名で解体させ、米国系企業にとって魅力的な市場を開放するという構図だ。農協改革という看板の裏で、肥料や農機、種子や農薬といった分野に強みを持つアメリカ企業、たとえばモンサント(現・バイエル)やジョン・ディアといった巨大企業の影がちらつく。
農水省は、そうした圧力に対してJAの立場を守ろうとしたのか、備蓄米の放出において全農に優位な条件を設定した可能性がある。だが、入札直後に農水大臣が「随意契約は違法の可能性がある」と発言したかと思えば、大臣交代後、方針は一転。財務省が特例として認め、全農を外す方向へ一気に進んだ。この即断的な転換は、事前にシナリオが描かれていた可能性を否定できない。
有り体に言えば、農水省と農林族議員は、JA潰しにおいて政府内で四面楚歌に近い立場なのだろう。他の省庁や与党議員の多くは、「日米関係のために日本の農業を差し出すこともやむなし」と考えている節がある。それは、過去幾度も繰り返されてきた構図でもある。
今回の騒動は、コメ価格や供給という表面的な問題にとどまらない。コメの裏側で、JAという巨大組織をめぐる静かな戦争が進行している。転売ヤー的な存在が一時的に市場をかき乱しているとしても、その背後に日米の力学が絡んでいるとすれば、それは「偶然の混乱」ではない。
今、悪者扱いされている農水省とJAだが、「日本の農業を守る」という視点から見れば、その立場は逆転するかもしれない。
今回のコメ価格高騰は、JAという存在をめぐる日米の静かな戦争の、氷山の一角なのかもしれない。そして、日本の農業がアメリカの意向に飲まれ、さらに弱体化していくか、農政改革により上向いていくかのターニングポイントなのかもしれない。
証拠はない。ただ、状況証拠の積み上げから見えてくる構図がある。
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