バカげたディールには、バカげたカウンター策を
トランプ米国大統領は、防衛費の大幅増額、アメリカでの自動車生産並びにアメリカ車の輸入など、日本に対して、強気の要求を突きつけてきている。
米国トランプ大統領は、日本をタフネゴシエーターとは考えていない。それどころか、強引な要求を突きつける姿勢を貫けば、日本は丸呑みにすると思っているのだろう。
関税交渉のために日本から大臣が6回も渡米したというのに、交渉が前進するどころか、更なる関税の引き揚げを示唆してくるなど、日本は完全に舐められている。
「結局、日本はトランプの言いなり」。そんな冷笑が日本国内にさえ漂うのも無理はない。
それならばいっそこの際、トランプ氏の要求を丸呑みにしてしまってはどうだろうか。ただし、日本のお家芸の柔道を応用しつつ。
相手が押してくる力を巧みに利用して、逆に相手を投げ飛ばしてしまうのだ。
まずは防衛費だ。トランプ氏は、非公式に日本の防衛費を3.5%に積み増すように要求していると言われる。それに乗ってやろうじゃないの。
だが、トランプ氏の望む米国製兵器の爆買いはしない。防衛費の増額分は徹底的に日本の国益に回す。
まずは、防衛費で全国の空港・港湾施設の整備を進める。実際のところ、政府は有事の際に自衛隊が利用することを条件に、国費を投入し、空港・港湾の設備を全国に進めていく計画だ。これを前倒しでどんどん進め、実際には交通・観光・防災の拠点として機能するようにすれば良い。自衛隊の利用はむしろおまけだ。
政府は、核シェルターの建設も少しずつ前に進めようとしているが、これも防衛費で進めることになんら問題はない。もちろん自然災害が起きた際には避難所として使う。目的としては、こちらがメインだ。
領海の守りを強化するために防衛費を使って艦艇を多数建造しよう。自衛艦ではない、Japan Coast Guard つまり海上保安庁の巡視船だ。これで、中国海警に対して数の上で劣勢な尖閣の警備を強化する。イージス艦など作ろうものなら、アメリカから高額なイージス・システムを購入しなくてはならない上に、軍備増強で過度に中国を刺激することになる。艦船の増強を海上保安庁の巡視艇に絞るのは、国益に適う知恵だ。なんなら海保初のヘリコプター空母を建造して、領海警備のみならず広範囲の捜索や救難、防災の能力を高めるのも良いだろう。海上保安庁は、有事の際は自衛隊の指揮下に入ることになっているのだから、防衛費で巡視艇を建造する事にはなんら問題無い。
海の守りだけではない。陸上自衛隊の施設科も大増強しよう。最新鋭の建設土木機械を大量に装備し、災害が起こった際には即派遣。
つまりは、防災機関としての自衛隊の機能を大幅に増強するのだ。アメリカ兵器の爆買い、アメリカの思惑で戦争に駆り出されるための準備としての軍事力増強より、よほど国益に即している。
さらに、備蓄米の保管料を現在の30倍に増やす。 現在の備蓄米の量では、国民の消費量をおよそ1.5カ月しか賄うことができない。何とも心細い限りだ。有事への備えとしての食料備蓄なのだから防衛費で堂々と支出すれば良い。
農家の繁忙期には臨時採用自衛官(防衛費から人件費を出すための方便で、実は農作業バイト)が稲作を手伝う。これも立派な安全保障だ。
多額の予算を捻出するには国債を発行しなくてはならないだろうが、これだけの公共投資が、日本経済を押し上げない訳が無い。
トランプ氏の要求通りの防衛費大幅増額。だけど、アメリカにはびた一文渡さない。
次に自動車。
「工場をアメリカに作れ!」
「日本はもっとアメリカ車を買え!」
そうトランプ大統領は拳を振り上げる。
望みのまま、アメリカ国内に日本メーカーの巨大工場を次々と建て、現地生産した車を「アメ車」として日本に逆輸入しよう。アメリカに工場を建て、アメリカで生産した車を輸入するのだ、文句はあるまい。
SNSで、
> “Japan is buying tons of American cars. Great deal!”
と勝ち誇るトランプ。だが、設計も技術も利益もすべて日本のもの。
何なら、燃費の悪いアメリカ車に、日本製の高効率エンジンを供給してやろう。
気づいたときには、アメリカにはもはや独自にエンジンを開発し生産する力すら残っていないかもしれない。
そしてデジタル分野。カナダに対して、デジタル利用課税導入を撤回させたトランプ氏だが、日本だってデジタル分野では、米国に対して赤字なのだ。
ここは、サイバー戦対策を強化せよという米国の要求に応じるフリをして、日本国民向けの専用高信頼ネットワークを構築。そこへ接続してサービスを提供したい米国IT大手には、インフラ維持のための接続料をしっかり支払ってもらうというのはどうだろう。
表向きは、米国の要請に応じた、台湾有事をも睨んだサイバー強化であり、ここにも名目としては防衛費の流用が可能だ。
さらに、トランプ氏の望みどおりに米国への投資を進め、トランプ氏と対立を深めるハーバード大学を買収し頭脳ごと頂き、野球チームのドジャースを買収してはどうだろう。
それにしても、米国からの兵器の爆買いには乗らず、これだけを防衛予算中心で整備したら、日本のGDPは確実に押し上げられ、景気はしばらく爆上がりだ。
結局、バカげたディールには、バカげたカウンター策を。
そしてそこに、恭順と見せかけながらちょっとした悪意と未来への布石をしのばせる。それくらいの狡猾さが、これからの国際政治には必要なのかもしれない。