改革をもたらしたYouTube活用選挙、課題はある

     2005年の参院選では、自民・公明の与党がついに過半数を割り、参政党と国民民主党が大きく議席を伸ばす結果となった。石破政権の方向性の曖昧さ、問題解決に対するスピード感のなさが信頼を失ったと考えられるが、もう一つ注目すべき変化がある。

    今回の選挙は「YouTube選挙」だったということだ。とりわけ、国民民主党が「手取りを増やす」、参政党が「日本人ファースト」といったワンフレーズを、YouTubeを通じて巧みに拡散し、訴求力のあるメッセージで支持を集めた。これは従来の選挙とは一線を画するメディア戦略の成功例といえるだろう。

 なかでも最も評価すべき成果は、投票率の上昇だ。特に若者の投票率が明確に跳ね上がったことは象徴的である。長年、政治は遠い存在とされ、投票しても社会は変わらないという諦めが蔓延していたが、今回の選挙では多くの若者が実際に投票所へ足を運んだ。YouTubeという彼らにとって身近なメディアが、関心を喚起する「入口」となったのは間違いない。

   しかも、まだ投票権のない世代も日常的にYouTubeに触れている。つまり今回のムーブメントは一過性の現象に留まらず、今後の民主主義の地盤を築く長期的な影響力を持つ可能性がある。

    従来の選挙では、組織票の効果を最大限とするために「浮動票は寝ていてほしい」と露骨に語る与党重鎮もいた。実際、情報不足や政治不信により、投票率は年々下がり続けていた。低投票率によって現状維持が強化され、民意が反映されにくくなる——この構造は、ある意味で民主主義の死であった。

    そこに風穴を開けたのがYouTubeだった。手軽に、そして繰り返し視聴できる動画は、政治を生活の中に引き寄せ、「自分ごと」として捉えるきっかけになった。その点において、YouTube選挙は大きな意義がある。

    しかし、当然ながら課題も多い。

    第一に、YouTubeやSNSでは、強い言葉・怒り・陰謀論といった「感情に訴えるコンテンツ」がアルゴリズムによって優遇されやすい構造がある。短くて刺激的なメッセージが拡散されやすい一方で、複雑な政策論や冷静な分析はどうしても埋もれがちだ。

    実際、「移民反対」「既得権益をぶっ壊す」など、根拠の曖昧な排外的・反体制的フレーズが飛び交う中で、感情の発散が政治参加と誤認される危うさも見え始めている。

    第二に、かつて小泉純一郎が「自民党をぶっ壊す」と叫んだような、ワンフレーズ選挙がYouTubeショート動画と非常に相性が良いことだ。だが、そのインパクトとは裏腹に、実際の政策の中身が十分に伝わっているとは言い難い。政治の複雑さが単純化されすぎると、誤解を生みやすく、極論が選ばれやすくなる。

ここで重要なのは、YouTubeを「きっかけ」として終わらせず、それを起点に多角的な情報収集へと進んでもらうことだ。投票所に足を運ぶことがゴールではなく、各候補者の背景、政策の実効性、長期的なビジョンなど、多面的な情報を比較検討した上で票を投じてほしい。YouTubeで関心を持ち、検索し、考え、判断する、「投票するスキル」を上げていくことが、今後の課題であり希望でもある。

    さらに、既存メディアの責任も問われる。これまで選挙期間中には「公平中立」の名のもとに報道が及び腰になり、争点を深掘りする役割を放棄してきた面がある。しかし、今やネット上では無数の言説が飛び交い、誤情報も即座に拡散される時代だ。だからこそ、新・テレビといった既存メディアこそが、YouTubeやSNSで発信された情報に即時ファクトチェックを加え、冷静な視点と分析を提供する必要がある。

    YouTube活用選挙は、関心を集める「手段」としては成功だった。しかしその次に来るべきは、「内容の吟味」だ。一人ひとりの視聴者=有権者が、その手段を活かす「主体」として成長すること、そしてメディア全体が真実に近づく「道しるべ」として機能すること。それが本当の民主主義の回復につながるのではないか。

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