原油備蓄を「自国を守る盾」から「世界をつなぐ架け橋」へ──日本型エネルギーハブ戦略
ホルムズ海峡封鎖に伴う石油不足に窮した近隣諸国からの、日本の原油備蓄の融通を求める声に、当初私は、反発を覚えた。オイルショックの教訓から、長年かけて積み上げた自国の危機管理のための備えを、なぜ他国に差し出さねばならないのか、と。しかし、そんな自分の狭量さを今は恥じたい。
この国際状況を俯瞰してみると、そこには日本が国際社会で存在感を取り戻す好機が潜んでいた。
原油備蓄を自国を守る「盾」にとどめるのではなく、世界をつなぐ「架け橋」へ転換できるのではないか。更に、ものづくりの国としての日本の再躍進にも繋げられはしないだろうかと思い直した。
原油の途絶は、灯りの消えた街や、止まった物流、物資の不足に泣く家庭、という風景を連れてくる。そんな状況から、自国だけ免れれば良いというものではないだろう。
中東の産油国は、思うように輸出できず、消費国は供給不安に揺れている。そんな産油国と消費国の分断をつなぎなおすハブの役割を、日本が担う事ができるのではないだろうか。
そう、備蓄原油の活用と、世界屈指の石油精製能力で。
私が提案したいのは、原油の単純な転売ではない。
産油国から原油を受け入れ、備蓄原油をクッションとして活用しながらローリングストックし、国内でガソリンや軽油、航空燃料といった製品へと高付加価値化し、アジアやさらなる遠隔地へ安定供給する「エネルギー加工貿易ハブ」の構築だ。
それは利益を追求する『商売』以上に、アジアという巨大な生命体の循環を支えるポンプ『心臓』としての役割を担う。
産油国は、この混乱の中、日本を窓口に調整すれば原油の輸出がしやすくなる。また、 消費国は石油製品が手に入る。
日本にとっても、国際供給を大義に、原油を優先的に入手しやすくなるし、石油精製産業の活性化に繋がる。
つまり、三方よしだ。近江商人の言うところの「三方よし」は、「売り手よし、買い手よし、世間よし」という、商取引において売り手と買い手が満足し、さらに社会貢献につながる経営哲学だ。今日的な強欲資本主義とは一線を画す、シェアの精神を含有している。ウイン・ウイン・ウインの関係だ。
このプランが実現すれば、自国だけのエネルギー安全保障が、国際的なエネルギー安全保障へと昇華する。日本が、国際的な安定をシェアする存在となりえるのだ。
もちろん、国家備蓄は本来、安全保障のための資産だから、その活用には制度的な制約もあればリスクも伴う。しかし、それを理由に可能性を閉ざすのではなく、ルール設計と国際協調によって乗り越える発想こそが求められているんじゃあないのかな。
問題は、産油国と大国の思惑を同時に乗りこなし、実利と大義を結びつける、したたかな交渉力が、我が国にあるかだ。
アメリカと同盟関係にあり、イランとも友好関係にある日本には、この機会を活かす外交の下地がある。 トランプ大統領お追従一辺倒の高市首相に、このプランが決断できるかは大変に怪しい。それ以前に、この提案を彼女が目にする機会も無いだろう。それでも、高市氏には見えていない、もう一つの日本の生き残り方として、あえて提案したい。
原油備蓄を自国に閉じ込めるのではなく、アジアあるいはさらなる遠方へとへ流すポンプとして機能させる。
そのとき日本は、資源を持たざる国でありながら、多くの国々とそこに住まう誰かの日常を、静かに支える存在へと変わるのではないだろうか。